1、出会い

 俺は日本の真ん中らへんに住む一般人ですこんにちは。
 突然ですがペットがほしいです。
 実は数年前からほしかったんですが、大人の事情で飼えませんでした。

 このたび金銭と気持ちに余裕が出来たので、ペットショップに突撃しようと思います。

 現代社会ってやばいよね、ストレスとか対人関係とか。ついでに政治とか日本の自殺率とか鬱とか。そんな荒んだ時にもふっとしたのがそばに居てくれたら最高だとおもいませんか? 

 そんな訳で今、俺はペットショップの前に居る。

 色々考えたが、文鳥さんをお迎えしようと思う。というのも、俺は一軒家に家族と住んでいるので、俺が自由に出来るスペースは自分の部屋しかない。母は爬虫類が嫌いなので、トカゲとか蛇はNG。兄が虫嫌いなので、タランチュラもNG、ご近所さんが困るので鳴き声が大きいのはNGと、色々な障害があって。最終的に飼い主の都合を考慮してくれて、おサイフにもやさしい文鳥さんとなった。
 もふもふがあれば俺は満足なので、不満はないです。

 文鳥さんについてはある程度調べて、飼育の知識はあるので準備はOK。
 一応、白文鳥のオスの成鳥を迎えようと思っている。
 俺にヒナを育てる時間はない。というかまだケージもそろえていない。

 今日はただの下見。いい子がいたらキープしてもらおうと考えながらペットショップに忍び込み、鳥コーナーにいくと、たくさんの鳥がいっせいに俺を拒絶し始めた。
 正確に言うと、ものすごく威嚇されるか、ものすごく離れようとしてる。

 えっ何だろうこれ。なんでいきなり拒絶から始まるの。
 もしかして俺臭いんだろうか。それともこれが普通なんだろうか。

 若干ショックを受けながら周囲を見回すと、白文鳥らしき鳥が2羽、ケージに入っているのが見えた。口を開けて羽を広げ、中々痛烈な威嚇っぷりである。
 元気そうで素晴らしいです。
 とりあえず目的の鳥を見つけたので、それぞれの性格とか、今まで与えてきたエサとかについて聞こうと近くの店員に声を掛ける。

俺「あのー、この文鳥について聞きたいんですが……。」
店員「は?」
俺「いやだから、この白文鳥について……。」
店員「それは白十姉妹です。」
俺「えっ」

 思わず値札を確認すると、「十姉妹」と書かれていた。これは恥ずかしい。家に帰りたいレベルで恥ずかしくなったが、グッとこらえることにした。

俺「文鳥って居ないんですか?」
店員「ヒナの入荷は春か秋ですね。当店は売れてしまったので居ません。今は夏ですから、居たとしても売れ残りしか居ませんよ。お客さんはどうせ、ヒナをお求めなんでしょう?」

 俺が最初からうすらバカっぷりを発揮したせいなのか、店員さんの対応は辛辣だった。そのお気持ちはわかる。俺だってアホな人に、手塩にかけて育てたペットを渡したくは無い。言い訳をするが、俺だって十姉妹のことは調べていた。しかし、茶色い子しか居ないと思い込んでいたため、白十姉妹(カラーは白文鳥と同じ)をみて白文鳥だと思い込んでしまったのである。言い訳終わり。

 その後、だるそうな店員さんにみっちり文鳥の飼育について教授され、他の店を見るようにとオススメされた。実際に商品を見せながら雛から成鳥まで詳しく教えてくれたので、始終めんどくさそうだった事を除けばいい店員さんだった。

 店員さんの勧めに従い、近場のペットショップを漁った。
 長くなるのでダイジェスト版でお届けする。

(A店)大手ショッピングセンターの一角にあったそのお店は、色んな動物が所狭しと並んでいた。ざわつく店内、ガラスを叩く子供。ペットたちは元気がないように見えた。店員に話を聞くと、文鳥は扱っていないらしい。さようなら。

(U店)鳥専門のお店で、民家が立ち並ぶ裏路地のようなところに建っていた。どうやら自宅兼ショップらしく、中で頑固そうなおじいさんが椅子で転寝をしていた。店内は恐ろしく汚かったが、鳥はみんな元気いっぱいだった。文鳥もたくさんいたので、頼んで触れ合わせてもらったが、文鳥にものすごく拒絶された。
 おじいさんは苦笑いしながら、「ここのはみんな相手が居るから(すでにカップル成立している)」と言っていたが、俺は凹んで家に帰って不貞寝した。

(P店)大手チェーンのペットショップ。さすが大手だけあって品揃えも抜群だった。
 途中ケージにいたコーンスネークに一目惚れしかけたが、家に持って帰ったら母に捨てられることは分かりきっているので流しつつ、鳥コーナーへ。U店には負けるが、たくさんの種類の鳥が居る。もちろん文鳥の雛も。
 しかし、夏にヒナが居る店はいかがなものか。そういった店はよくないと、だるそうな店員に聞いていたが、実際に見てみると何羽か居る内の一羽が奥に引っ込んでフワフワになっている。これ、病気じゃなかろうか。
 とりあえず保留にして店を出る。
 ちなみに、この店でも俺は大人の文鳥に拒絶された。

(I店)スーパーの一角にあった。鳥にウサギにハムスターと、小動物がメインのお店らしい。かわいらしい女性の店員さんが流しで何か洗っていた。
 鳥は子供の手の届かない高さに居て、ギャーギャー元気に鳴いていた。すごく汚かったが、すごく元気そうだった。なんとなくU店を思い出しつつ、文鳥を見ると、桜文鳥が一羽、俺に猛アピールしていた。

 ん?

 文鳥が俺に猛アピールしていた。
 今までショップで拒絶され続けていた俺に、文鳥がアピールしていた。
 まるで触ってほしいとでも言いたげにケージの壁にへばりつき、ふわふわの腹を向けて。

 多分このとき、俺は一目惚れしたのだ。

 つづく
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2、家族

 文鳥からのまさかの求愛に舞い上がっている一般人ですこんにちは。
 あれから数日が経ちました。

 えっ、あの文鳥はどうなったのかって?どうもなってないよ。むしろどうすることも出来ないよ。だって俺、まだ家族にペット飼いたいって言ってないからね!
 なぜ言っていないのかというと、反対されるのが目に見えているからだ。なにしろ俺、すこぶる信用がない。毎日世話できないでしょーとか死んだらどうするのーとか言われたら反論できない。ちゃんと世話をする気はあるが、俺には経験も実績もないのだ。

 お迎えするためには、なんとか家族をやり込めなければならない。それには最適なタイミングと、それから説得力のある言葉が必要だ。やばいまったく自信がない。あまり日にちをかけると例の文鳥は売れてしまうかもしれないし、そうなればまた半年くらい待つ事になる。

 もはや俺には、あの桜文鳥以外をお迎えすると言う選択肢はなくなっていた。あの文鳥に飛んできて欲しい、あの文鳥なら最後まで世話できる。できるだけ急いで、売れてしまう前に入手しなくては。もはや家族の説得は最重要課題である。

 という訳でやってきました、説得の時間!ちなみに我が家の最高権力者は母である。母上さえ抑えておけば後はどうにでもなる。父と兄が家にいない日の夕食後の居間で、俺は母とのんびり雑談していた。いやちがう、のんびりとしているのは母だけで、俺の心臓は緊張と焦りでキャッキャと暴れまわっていた。

俺「あー・・・ところで母さん、話があるんだけど」

 今だ俺、切り出せ俺!と何回か己を鼓舞し、俺はやっと本題に入った。母はのん気に返事をする。

母「んー?」
俺「俺、実は・・・ペットを飼いたいんだけど・・・文鳥っていう、小鳥」

 言った―!ついに言った。なんのひねりも工夫もないセリフだが、俺にはペットがほしいと言う情熱しかない。なのでその情熱をぶつけるのみである。

俺「俺、何年も前からペットが欲しかったんだよ。今ならお金もあるし、世話のやり方だって調べてある。人と付き合いやすい動物を選んだつもりだし、家族にはあんまり迷惑かけない・・・と思う。全部俺がやる。部屋から出すこともない。だから家でペット・・・飼ってもいいかな?」
母「いいんじゃない?」
俺「ファッ!?」

 あっさりOKされたのでびっくりした。俺の決意は何だったのか。小学生の時さんざん責任感がないからペットを飼うなといわれ、ハムスターを飼う兄を見ながら歯軋りしていた記憶が蘇る。喜ばしいはずなのに微妙に納得できない。今までの葛藤は何だったのか。

俺「えー・・・ほんとに良いの?」
母「いいよ。あんた最近しっかりしてきたしね」
俺「父さんと兄貴の説得、協力してくれる?」
母「ああ・・・」

 母は時計をチラッと見た。そして冷めていく父と兄の夕食を見てにっこりと笑った。

母「お兄ちゃんはどこ行ったか分からないし、お父さんは夕食までには帰ってくるって言ったのに帰ってこないし。みんな勝手なことばかりしてるんだから、あんたが勝手な事したって怒る権利なんてないでしょ。文句言ってきたら説教してやる」
俺「ええと、つまり?」
母「お父さんとお兄ちゃんに内緒でペット、飼っちゃいましょう!」

 実に楽しそうな笑顔だった。日ごろの鬱憤を溜め込んでいたらしい。とりあえず父と兄は土下座する準備をしておいたほうがいいと思った。

 それから話はとんとん拍子に進み、明日にでもお迎えしようという事になった。荷物が多くなるから、母が車を動かしてくれるらしい。ありがたい話である。
 俺は間近に迫った文鳥モフモフ生活を夢想してニヤニヤしながら、眠りについた。

 モフモフはすぐそこだぜ、ヒャッハー!

 つづく

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3、お迎え

 ペットショップより生中継でお送りしております。

 清々しい朝を迎えた俺は、財布に2万ほど突っ込み、母とともにペットショップへ出かけた。幸い桜文鳥は売れておらず、また俺に腹を見せてくれた。やだこの子最高にかわいい。俺は購入の意思を伝えるため、商品を持ってうろついていた店員さんに話しかける。

俺「今ちょっといいですか?」
店員「はい?」
俺「あそこに居る文鳥について聞きたいんですけど・・・」

 俺は搾り出す勢いで文鳥について聞きまくった。性格、病歴、育て方・・・。ついでに今まで与えていたエサや、おすすめの商品を聞きながら飼育用品を揃えていく。アドバイスがあるって素晴らしい。
 一通り揃えたあと、文鳥のもとへ。あらためて見ると、水はにごってるし羽は薄汚い。が、元気そうだから問題はない。寄ってくる文鳥を眺めながら、俺は店員さんに話しかけた。

俺「人懐っこいいい子ですね。触れ合ったり出来ます?」
店員「ええっと、この子は・・・兄弟達と一緒に入ってきたんですけど、一番愛想がなくて・・・。他の子なら、触れ合ったり出来たんですけど・・・」

 なんと。これで愛想がないらしい。今まで俺を拒絶してきた文鳥たちは何だったのか。荒鳥ですね分かります。それにしてもやっぱりと言うか何というか、この文鳥は売れ残りだったらしい。どんどん兄弟達が売れていく中で、ただ一羽、最後まで残った文鳥・・・だめだ想像したら切なくなってきた。
 俺は勝手な妄想をゴミ箱に捨て、店員さんに購入の意思を伝える。店員さんはしばらくどこかに行ったかと思うと、書類を手に戻ってきた。

店員「この書類を読んで、必要事項を記入して下さい。」

 書類には【確認書】と書かれており、飼育上の注意や法令、鳥の病気などが簡単に記されていた。俺は名前、住所、電話番号を書いて店員に返す。これで手続きは終わりらしい。命を預かるんだから、もっとこう・・・、なにか講習みたいなものでも受けるのかと思ったが、意外と簡単に終わった。後は文鳥を受け取って、お金を払うだけである。母も終わりの気配を察したのか、ウサギをおびえさせるのをやめて俺の元へと来る。

店員「書類は・・・大丈夫ですね。じゃあ、文鳥をお渡ししますね。」

 そう言って店員さんは"ダンボール製のカードケース"に文鳥を押し込もうとした。

俺「は!?」
母「え!?」

店員「えっ何ですか!?」

 暴れまくる文鳥をわし掴みでダンボール詰めにする光景にびっくりする俺たちと、そんな俺たちを見てびくっとする店員さん。後から分かったことだが、暗く狭い場所に入れることで、文鳥を環境の変化によるストレスとパニックによる負傷から守るための処置らしい。だがそんな事を知らない俺たちにはまるで虐待しているように見え、慌てて虫かごを購入してそこに文鳥を入れてくれと頼み込んだ。やさしい店員さんは新聞紙でケージ内に暗闇を作ってくれた。この店員さんにとっては散々な一日だったと思う。
 そのままレジで一万二千円ほど払い、車で家を目指す。虫かごからはずっともそもそ聞こえていた。

 もうすぐ家だ。
 家に来て幸せだと思ってもらえるよう、しっかり世話をしようと思った。

 つづく
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