人物紹介と警告

【!警告!】

 このお話は、クトゥルフ神話のホラー設定と、「毒入りスープ」のシナリオをお借りして制作しています。
 文鳥擬人化、流血表現があります。
 文鳥小説ですが、文鳥があんまり出てきません。
 ホラー小説です。

 以上のことをご了承ください。


【人物紹介】

・谷山 (男)
この小説の主人公。
至って普通の一般人。
桜文鳥を飼っており、「姫」という名前を付けてかわいがっている。


・霧島 (男)
谷山の友人。
安アパートで一人暮らしをしている。
冷静でまじめな性格で、ちょっとやそっとでは驚かない。
最近、谷山の勧めにより文鳥を飼い始めた。


・少女 (女)
なぞの部屋で出会う少女。
言葉が話せないようである。
矢印文鳥と毒 一覧へ

0.序章

 皆さんこんにちは。
 俺は谷山。日本の真ん中あたりに住む一般人です。

 俺は今、なぜか全裸にローブと言う変態的な格好で、見たこともない薄暗い部屋の中に寝転がっていた。なぜこうなった。ついでに俺の隣には友人が同じ格好で寝ている。何コレ、誘拐か。友よ、のんきに寝ている場合じゃ無いぞ。

 俺は体を起こしてあぐらをかき、思考をめぐらせた。確か、こうなる前、俺は自宅にいたはずだ。そろそろ夜も遅くなってきた頃。ペットの文鳥におやすみの挨拶をして、布団にもぐりこみ、寝ようとしたところで・・・・・・友人から電話がかかってきた。

 そこで・・・・・・何の話をしたんだったか。思い出せない。とにかく猛烈に眠かった。多分俺は、会話の途中で寝落ちしたんだと思う。通話代大丈夫かな。せめて切ってから寝たと信じたい。

 で、今。なぜか俺と、俺の電話の相手だった友人が見ず知らずの部屋にいる。コンクリートで囲まれた狭い正方形の部屋。全ての壁に一つづつ扉があり、窓は無く、真ん中にはテーブルと椅子。ご丁寧に服まで替えられて。どうしてこうなった。ダメだ分からん。

 とりあえず考えても無駄なので思考を放棄し、友人・・・・・・霧島の肩を揺さぶった。

「おーい霧島ー。起きないと扉の外に放り出すぞ。外がどうなっているのか知らないけど。」

 いくらか声をかけると、友人は薄っすらと目をあけた。

「ん・・・・・・?なんだ谷山、もう来たのか、気が早いな・・・・・・」

「何言ってるのお前。寝ぼけてる場合じゃないよー」

 友人なので遠慮なくゴロゴロと転がす。ちょっとうざそうな顔をしながら、霧島は身を起こした。

「何って、さっきまでそういう話を・・・・・・ここどこだ?」

「俺も知りたいです。な?寝てる場合じゃないだろ?」

「んー・・・・・・」

 友人・・・・・・霧島はのそりと立ち上がって周りを見回した。そして部屋の中央にあるテーブルに目を留め、歩み寄っていく。俺もつられて寄ってみると、テーブルの上に何かが置かれているのが見えた。真っ白な大皿。そこに満たされた、赤い液体。立ちのぼるのは、どこか鉄臭さを含んだ暖かな湯気。

「スープだ。」

 友人の声にはっとする。いつの間にか霧島は、古びた紙を手にしていた。椅子の上に落ちていたらしい。何か書いてあるようだ。霧島はゆっくりと、文字を読み上げた。

「ひさしぶりの お客様 毒入り スープで さようなら 
 飲まなきゃ お家に 帰れない
 制限時間は 一時間 過ぎたら おばけが やってくる」

 それは、詩のような、幼い子どもが戯れに書いたような文章だった。それでも、なぜかそれが、俺たちへのメッセージだと感じた。しばらく沈黙したあと、霧島が椅子から2枚目の紙を拾い上げて読み上げた。

「無害な 人間の 血の スープ 冷めない 内に 召し上がれ」

 俺は、ゆっくりと、机の上のスープを見た。満たされた赤い液体が、狭い部屋の中に、血の匂いを充満させていた。

 つづく
矢印文鳥と毒 一覧へ

1.スープの部屋

「・・・・・・今、何時だ?」

 俺は思考を断ち切るように呟いた。無意識にポケットを探るが、当然、今来ているローブのポケットにスマートフォンは入っていない。部屋を見回しても時計は無く、時間の確認は出来なかった。俺たちはどれくらい寝ていたんだ?時間はどれだけ残されている。やってくる「おばけ」とは何だ。絶対、ろくなものじゃないだろ。

「とにかく、このスープを飲めば家に返してもらえるのか?」

 異臭が立ちのぼるスープに手を伸ばしてみると、ひどく熱かった。作られてからあまり時間がたっていないのだろう。それはつまり、俺たちが目を覚ます直前にこのスープが置かれたことを意味する。少し前まで、スープを作った「誰か」がここに居たのだ。熱さに耐えられず皿から手を離した俺を見て、霧島がゆるく首を振った。

「いや、多分、このスープを飲んでもダメだろう。俺たちは”無害なスープ”ではなく”毒入りスープ”を飲まなきゃいけないと、紙に書いてある」

 そして、2枚目の紙を机の上で裏返すと、そこには部屋の地図が書かれていた。今俺たちが居る『スープの部屋』を中心に、北には『お料理部屋』、南には『怖い部屋』、西には『本の部屋』、東には『いい子の部屋』が、囲むように配置されていた。
「ああ、つまり、色々調べて回れってことか」

 ご丁寧に脱出法(?)と、地図まで用意してくれているのだ。俺たちをここに閉じ込めた「誰か」には、今すぐ俺たちを害そうとか、そういう気持ちは無いらしい。久しぶりのお客様とか書いてあったし、温かいスープと楽しいゲームで、俺たちをもてなそうとしてくれているのかもしれない。まったく嬉しくないが。

「とりあえず、『怖い部屋』には行きたくないな」

 俺の言葉に霧島も同意する。

「出来れば俺も行きたくない。毒がありそうなのは『お料理部屋』か。時間が分からないというのが不安だな・・・・・・。二手に分かれたほうが、時間短縮になるだろう。谷山はどの部屋を調べる?」

 霧島の提案に俺はぎょっとした。

「え、ちょっと待って。紙にはこのスープが『人間の血のスープ』って書いてあったんだよね?『お料理部屋』ってお前・・・・・・どんな食材があるんだよ」

 俺たちは再び沈黙した。

「霧島、俺は『いい子の部屋』を調べようと思う」

「そうか、谷山。なら俺は『本の部屋』を調べよう」

 お互い、ローブ以外何も持っていないのがつらい。善は急げとばかりに身一つで西と東の扉を開け放ち、俺たちは顔を見合わせた。

「毒っぽいものと、出口を探せばいいよな?集合はこの部屋?」

「ああ。無理せず、出来ることだけをしよう。どこかに解毒剤が無いかも調べてくれ。毒入りスープが死ぬような物だったら本末転倒だからな」

「じゃあ、お互いに」

「そうだな。お互いに」

「「幸運を祈る」」

 そして俺たちは、それぞれ西と東の、薄暗い廊下に歩みを進めた。

 つづく
矢印文鳥と毒 一覧へ

2.本の部屋

◆―霧島side―◆

 谷山と別れた”俺”は、うす暗い廊下を歩き、つきあたりの木製の扉に手をかけた。俺が選んだ部屋は『本の部屋』だ。危険は無いはずだが、『血のスープ』なんて用意してくるような人物の管理する部屋である。

 それにしても、と俺はため息を吐いた。

「これは現実なのか、夢なのか・・・・・・」

 ひんやりした空気もローブの感触も、何もかもリアルだが、現実にこんな事がありえるのだろうか。一人暮らしの俺はともかく、家族と暮らしている谷山を拉致して、こんな場所につれてくる事など。第一、目的は何だ。  仮に夢だとしたらどうだろう。俺は家で寝ていて、寝る直前まで話していた谷山が夢の中に出てきている。これなら、どんな怪現象がおこっても不思議じゃない。スープが人間の血でも、おばけが襲ってきても、目が覚めたらそれでオシマイだ。

 しばらく聞き耳を立てていたが、部屋の中からは何の物音もしない。そうっと扉をあけると、小奇麗な木製の部屋が俺を迎えた。部屋の中央には古い木製のテーブルが在り、その上にあるロウソクがうっすらと部屋を照らしている。そして、壁一面に本棚が敷き詰められていた。

「これは、すごいな」

 ジャンルもサイズもばらばらだが、丁寧に敷き詰められた本は圧巻だった。幸いどれも分かりやすい日本語のタイトルだったので、本を調べるのは楽そうだ。

「『毒と銀食器』・・・・・・へぇ、銀って毒に触れると黒くなるのか。ん、『スープの夢について』?」
 数多くの本の中で、ひときわ異彩を放つ真っ黒な本を見つける。その本からは他とは違う、花のような甘い香りがした。思わず手に取ると、手にべったりと黒い液体が付く。本なのにペンキ塗り立てなのだろうか。液体からは本と同じく甘い香りが漂ってくる。

「あとで、料理部屋に行って手を洗うか」

 呟きながら、本を開く。分厚い表紙とは裏腹に、内容は少なかった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――
・【スープの部屋】・・・ちゃんとした毒入りスープを飲まないと出られない。
・【お料理部屋】・・・調味料や食器、ちょっとだけ予備のスープがある。
・【いい子の部屋】・・・とっても良い子が待っている。いいものを持っているよ。
・【本の部屋】・・・本は持ち出したらダメ。
・【怖い部屋】・・・神様が眠っている。毒の資料があるよ。
         怪物は生き物を食べたらいなくなる。

※大事な事※・・・死ぬ覚悟をして飲むように。
―――――――――――――――――――――――――――――――――

(やっぱり死ぬんじゃないか・・・・・・!)

 どうやら毒はかなりヤバイものらしい。『いい子の部屋』に良い物があるらしいから、それが解毒剤とか出口の鍵とかだったら助かるんだが。他の本も数冊読んでみたが、とくに新しい情報は無く、俺は黒い本を持ち帰ることにした。持ち出し禁止と書いてあるが、谷山に見せてから本の部屋に戻せばいいだろう。

 黒い本を手に、再び薄暗い廊下に出る。そういえば『本の部屋』にも窓は無かった。ここは閉ざされた空間なのだろうか。いや、どこかに出入り口があるはずだ。とにかく谷山と合流して―・・・

バタン

(・・・・・・? なんの音だ?)

 唐突に背後…『本の部屋』から物音がして、俺は振り向く。俺が入ったとき、部屋には誰も居なかった。部屋に続く道はこの廊下だけだ。風は無い。だというのに、俺の目の前で、『本の部屋』の扉が激しく開閉を繰り返す。

バタン バタ バタ バタバタバタバタバタバタ

 そして、扉は、唐突に”溶けた”。黒い液体と化した”扉”が、もぞりとうごめき、俺のほうへと這い寄ってくる。

「―――っ!!」

 それは一瞬のことだった。黒い”扉”は俊敏な動きで俺の手から黒い本を奪い取り、再び『本の部屋』に戻ったかと思うと、何事も無かったかのようにまた”木の扉”へと形を変えた。

(本を持ち出しちゃダメって、そう言う事か・・・・・・!)

 非現実的なことを目にし、恐怖が湧き上がるが、ぐっとこらえる。ルールを守れば、きっと危害は加えられない。谷山は無事だろうか。はやく、友人の元へ行こう。

――本に記された『いい子』が、文字通り俺たちにとって『いい子』であればいいのだが。

 つづく
矢印文鳥と毒 一覧へ

3.いい子の部屋

◆-谷山side-◆

 霧島と言葉を交わした後、俺は『スープの部屋』を出て、『いい子の部屋』の前で止まった。部屋の扉は朽ちた鉄で出来ていて、正直とても気味が悪い。

(うわー、これ、ハズレ引いちゃったかも・・・・・・)

 正直関わりたくなかったが、何もしないままオバケが来るのも嫌なので、意を決して取っ手を持つ。

(この先に居るのは良い子、良い子、怖くなんかない。あー、でもこれ絶対”何か”が居るんだよな。こんな厳重な扉の先に。本当は封印解いちゃいけない系のバケモノなんじゃないの)

 などと考えながら手にぐっと力を込める。引いてみる。開かない。押してみる。開かない。あれ、あれれ、と困惑しながらガチャガチャ押したり引いたりしていると、突然扉が内側に開いた。

「うぉっ!?」

 突然のことに対応しきれず、俺は部屋に倒れこんだ。ぶにゅっとした地面が気持ち悪い。何この地面。急いで顔を上げ部屋を見回すと、そこは明かりも窓も無い、真っ暗な空間だった。俺の開けた扉から光が入り込む。照らし出された光景に、俺は息をのんだ。
 俺の下にあったのは、首のない男性の死体だった。細く照らされた床は、飛び散った血で赤黒く変色している。俺は死体から飛びのき、床に這いつくばりながら込み上げる吐き気を必死で抑えた。

(何が『いい子の部屋』だ。どうして人が死んでいるんだ。これが時間内にスープを飲めなかった人の末路なのか。いや、確かこの部屋には、”良い子”が居ると―・・・)

 ・・・・・・ひた。

 混乱した俺の耳に、物音が聞こえた。何かが、歩くような。おそるおそる視線を上げると、光も届かない部屋の奥で、”何か”が動くのが見えた。

 ・・・・・・ひた。・・・・・・ひた。・・・・・・ひた。

 俺の前に現れた”ソレ”は、全身が真っ白だった。体には血が染み付き、大きな赤い目で俺を見た。どこからどう見ても、”ソレ”は、

「・・・・・・お、女の、子・・・・・・?」



 部屋の奥から現れた”彼女”は、アルビノと呼ばれる、色素の薄い体を持った少女だった。少女は血でまだらに染まった白いワンピースを身につけ、右足には鎖の無い赤色の足枷がはまっている。5,6歳といったところだろうか。長い白髪をたらし、左手には紙、右手には銃を持っていた。

「こんにち・・・・・・は?」

 俺の場違いなあいさつにコクンとうなずくと、少女は手に持っていた紙を差し出した。紙にはこう書いてあった。

――――――――――――――――――
この子は あなたの かわいい しもべ 
命令には 嫌でも 絶対に 従います
無口だけど 人懐っこい 良い子なので 
可愛がって あげてください
――――――――――――――――――

(うわー・・・)

 人間をしもべと言っちゃうところとか、命令には従うとか、いろいろ突っ込みたいところはあったが、それより重要なのは目の前の少女だ。

「・・・・・・ええっと、とりあえず、この紙に書いてある『いい子』ってのは、君のことでいいのかな?」

 少女は首をかしげる。その姿は意外とかわいかった。

「この部屋には死体があるけど、その・・・・・・君が手に持ってる銃で殺したの?っていうか、俺の言葉分かる?」

 ちょっとキツイ質問だったかなと思ったが、少女は気にした様子も無く、自分の耳を指差してコクンとうなずき、次に死体を指差して首を振った。

(これは・・・・・・言葉は分かる、死体とこの子は関係ない、という解釈でいいのかな?じゃあこの死体は一体何なんだ。銃は?この子も全然しゃべらないし・・・・・・しゃべれないのか?)

 俺は髪をグシャグシャにして思考を切り替えた。この子が無害ならそれでいい。

「君、ここの出口とか知ってる?だれがこんな事してるのかとか、無事に帰る方法はあるのかとか、いろいろと知りたいんだけど」

 少女は首をかしげるばかりだった。何も知らないのだろう。もしかしたら、彼女も俺たちと同じ、ここに連れてこられた被害者の一人なのかもしれない。放っておく訳にはいかないと、俺はさらに言葉をつむいだ。

「えっとね、俺、谷山って言うんだ。気がついたら友人・・・・・・霧島とここにいて、ここから出るには毒入りスープを飲まなくちゃいけないって紙に書いてあったから、今いろいろと調べてる最中なんだ。君がどうしてここにいて、何をしているのかは知らないけど・・・・・・、よかったら、俺たちと一緒に行動しないか?それで、その、君が望むなら、一緒にココから脱出しよう」

 そういって手を差し出して様子を伺ってみる。少女はしばらくぼうっと俺を見た後、銃を投げ捨てて両手で俺の手を掴み、コクコクと何度もうなずいた。暗闇の中で心細かったのだろうか。俺はほっと笑みを浮かべ立ち上がる。もう一度部屋を見回すが、暗すぎて調べようもないし、『いい子』はもう見つけたのだから十分だろう。俺は少女に話しかけた。

「今から俺たちはこの部屋を出て、スープのある部屋に行く。そこには多分霧島っていう男が居るけど、そいつは俺の友人だから安心していい。俺たちはこれから他の部屋に行ったり調べたりするけど、疲れたり、嫌だったりしたら言っ・・・・・・えーと、俺の腕を掴んで首を振ってくれ。いいかな?」

 少女がおとなしくうなずくのを見て、俺は『いい子の部屋』を出た。もちろん床に落ちた銃も回収して。

(あー、転んだときに服に血がついちゃったし、銃持ってるし、女の子増えてるし・・・・・・霧島どんな反応するかな)

 驚愕する友人を想像して苦笑いしながら、俺たちはスープの部屋に戻った。

 つづく
矢印文鳥と毒 一覧へ

4.お料理部屋

『スープの部屋』に戻ってしばらくすると、どこか疲れた様子の霧島が戻ってきた。

「谷山、無事だった、のか?どうして血まみれ・・・・・・その女の子はどうした」

 想像どうりの困惑っぷりである。俺は部屋での出来事を、グロいところをぼかしつつ説明することにした。

「『いい子の部屋』がなぜか血まみれでさ、すべって転んじゃったんだよね。で、この女の子が『いい子』なんだって。銃と紙を持ってたよ。はい。これね」

 霧島に少女が持っていた紙と銃を渡すと、霧島はため息をついた。

「『いい子』が持っている『いいもの』って言うのは銃の事だったか。一般市民の俺たちに銃なんか扱えるわけがないだろう。俺たちをココに閉じ込めた奴は何を考えているんだ?それに、しもべ・・・・・・」

 霧島が困ったように少女を見つめる。すると少女も不安げに霧島を見上げた。

「一通り質問してみたけど、彼女は何も知らないみたいだよ。俺らみたいに無理やり連れてこられたのかもしれない。ココから脱出するのについてくるかって聞いたら、素直に来たし」

 ねー。と少女の頭をなでようとしたが、少女は俺のそばを離れて霧島に駆け寄った。どうやら俺は振られたらしい。少女は霧島の服を掴み、大きな目でじっと霧島を見つめた。

「・・・・・・何だ。何を訴えてきている。一緒に行動したいならすればいい。熱心に見つめるのはやめろ。そうだ、谷山、『本の部屋』での事だが―・・・」

 霧島は『本の部屋』で、いくつかの情報を仕入れたらしい。そして、本を持ち出すなと言う警告を無視したところ、黒いスライムに襲われたのだとか。

「自動で本を回収しに来るとかどんな科学力だよ・・・・・・」

 普段なら冗談だろと笑い飛ばすところだったが、この場所ならそういうこともありそうだと思ってしまった。もう本当どこなのここ。怖すぎる。

「なんか、霧島の話聞いてると、ここってかなり危険な場所だよな。残り2部屋は全員で回ったほうが良いんじゃないか?時間がちょっと心配だけど―・・・」

 俺は言葉を切ってスープに触れた。触れても問題ない程度に冷めていたが、まだまだ熱かった。

「ひと部屋調べるのにかかる時間は、5分か10分ってところだ。全員で部屋を回っても、20分使うかどうかだろ」

「む。・・・・・・まぁ、確かに大人数で行動した方が、安全性は増すな」

 少女もコクコクとうなずく。この部屋で待ってても良いよと声をかけたが、付いていきたいらしい。どの部屋に行く?、と言いかけた俺を遮って、霧島が言った。

「本を読んだところ、怖い部屋には毒の資料があるが、神様と怪物が居るらしい。料理部屋で包丁とか鍋の蓋とか、身を守る物を手に入れてから行った方がいいと思う。」

『お料理部屋』・・・・・・血のスープから察するに、かなり血なまぐさそうな部屋である。

「じゃあ、俺が先行するわ。俺グロ耐性あるし、ちらっと見てやばそうだったら撤退。もしくは見えないように隠すって事で。」

「ああ、すまない、・・・・・・頼んだ」

 善は急げ。俺たちは『お料理部屋』へと続く扉を開けた。

◆◆◆

 『お料理部屋』の扉はプラスチック製の白い押し扉だった。キィ、と扉を開け、そっと中をのぞくと、予想外に清潔なキッチンが俺を迎えた。
 白の美しい食器棚に、磨き上げられた流し台。コンロにもなんの汚れも無く、ところどころに置かれた食器は明るい照明を受け銀色に輝いていた。

「霧島、キレイな部屋だ。入ってきていいぞ」

 俺の言葉で二人が入ってきた。あいかわらず少女は霧島の服を掴んでいる。霧島は部屋の明るさに目を細めたあと、銀色の食器を珍しそうに手に取った。

「素晴らしい装飾だな。高そうだ」

「霧島、お前の手に黒い液体付いてるの、覚えてる?」

 霧島の手は『本の部屋』に行ってからずっと汚れたままだ。その手で食器を掴んだのだから、当然『高そうな食器』にはべっとりと汚れが付いている。

「ああ、弁償・・・・・・!いや、洗えばなんとか・・・・・・」

 あわあわしながら急いで流し台に行き、食器と手を洗い始める霧島。誘拐犯から食器代の請求なんかされるわけないだろ。霧島ってどっか抜けてるよなぁと、俺は呆れつつ探索を開始した。整頓された部屋は、ぱっと見るだけでどこに何があるのかが分かる。俺は大きな鍋がコンロに置かれているのを見つけ、そこに寄っていく。鍋の蓋にはメモが貼り付けられていた。

――――――――――――
安全 安心 お料理部屋
危険な物は ありません
――――――――――――

(これは・・・・・・)

 危険な物はないということは、毒も無いということだろうか。この部屋には調理器具が置かれているが、食材らしき物は見当たらない。そっと鍋を覗いてみると、『スープの部屋』にあったものと同じ、赤い液体が入っていた。

「ダメだ、霧島。ここには何も無い。適当にナイフとか持って、毒の資料を探しに行こう」

 俺が霧島に声をかけると、霧島は食器を洗うのをやめた。食器は汚れが取れず、黒ずんだままだった。

「汚れが、落ちないんだ」

「食器の一本くらいいいだろ。どうせこれから怪物にメコメコにされるかもしれないし」

 しぶる霧島に刃物を持たせ、『お料理部屋』を出る。
 そしてそのまま、『怖い部屋』へと足を進めた。

 つづく
矢印文鳥と毒 一覧へ

5.怖い部屋

 『怖い部屋』の扉は、小窓つきの大きな鉄扉だった。窓から部屋を覗くと、『怖い部屋』は他の部屋に比べてかなり広く、いくつかの棒が立っているのが見えた。なんのインテリアだ、と身を乗り出すと、体重で扉がミシリと音を立てた。

 ――その瞬間。

 ”棒”がざわざわと動いた。何本も、何本も、うごめくソレは、棒ではなかった。くの字に折れ曲がり、ゆるやかな黒と黄のグラデーションを持った”棒”は、そのまま巨大な黒い”胴体”に繋がっていた。サイズがおかしいが、どう見ても。

「ゲジゲジです本当にありがとうございましもう帰りたい」

 『怖い部屋』に居たのは、人間の5倍はある巨大なゲジゲジだった。頭が麻袋で包まれているせいか、小窓から覗く谷山一行に気がついていないらしい。だが音は聞こえるらしく、扉を伺うように頭を向けていた。部屋を覗いた霧島も閉口する。

「なんだアレは・・・・・・。足元に紙が落ちているな。資料か。なるほど、入って取ってこなくてはならないのか。」

「いやそれ絶対死ぬだろ。霧島、本に怪物の撃退法とか書かれていなかったのか?」

 俺の質問に霧島は黙りこくった。硬い表情をし、少女を見つめしばらく何かを迷ったあと、口を開く。

「・・・・・・生き物を食べれば居なくなるそうだ」

「・・・・・・。」

 俺は言葉を失った。資料を手に入れるために、誰か一人死ななければいけないらしい。そしてそれは、おそらく”嫌でも絶対に従うしもべ”の役割なのだろう。スープも、手がかりも、毒も、全ては初めから用意されているのだ。必要なのは、”覚悟”だけ。

「もし、仮にだ。俺が怪物に食べられて来いって言ったら、君は従うのか?」

 俺が少女に話しかけると、少女は肩をビクリと震わせ、目にいっぱい涙を溜めてうなずいた。そして扉に手をかけ、震えながら『怖い部屋』に入ろうとする。

「ま、待って。言ってみただけ、言ってみただけだから。本当に行かなくていいから!」

 俺は慌てて少女を引き止める。あぶねぇ。あせる俺の頭を霧島が叩いた。

「言って良いことと悪いことがある」

「すみませんでした」

 少女に謝罪し、部屋の中を覗くと、怪物は俺たちをいぶかしげに探っていた。扉が開いたのに襲ってこないということは、部屋から出られないのか。それとも意外とおとなしい怪物なのか。試しに持ってきていた包丁を投げ入れると、カラン、と音を立てて部屋に落ち―・・・、

 ――怪物が轟然と走り寄り、足で包丁を粉砕した。

 ・・・・・・。

「毒の資料はいらない気がしてきた」

「谷山、現実逃避するな。」

 逃げようとした俺は霧島に捕まった。霧島は扉から手を入れ怪物に手を振るが、怪物に反応は無い。

「どうやら音だけを頼りに行動しているらしいな。静かに入れば襲われないだろう。問題は誰が資料を取りに行くかだが・・・・・・。」

「俺の帰りを待っている姫(ペットの桜文鳥)がいるので死にたくないです」

「俺もキリを一人にしたくない」

 霧島が聞きなれない名前を口にしたので、俺は驚いて霧島を見た。

「キリって誰?」

「誰って・・・・・・」

 霧島は目を見開いて俺を見る。

「ここに来る前、電話で話しただろう。俺も白文鳥を飼い始めたんだ。一人暮らしにどうかって、勧めて来たのは谷山じゃないか。お前、見に来るって言ってただろ?」

「あ、え、そうだったっけ?」

 どうやらココに来る前、電話で霧島のペットについて話していたらしい。夢うつつで聞いていたので記憶が飛んでいる。少女は霧島の服を掴み、俺たちを交互に見た。

「・・・・・・大丈夫だよ」

 俺は少女を安心させるために笑顔を作る。

「一緒に脱出しようって言ったしな」

 そして大きく伸びをして、頬をぱちんと叩いた。

「よし、霧島。俺が行くわ。霧島は『お料理部屋』に行って、とにかく食器をたくさん持って来てほしい。それで、俺が物音をたてて襲われそうになったら、食器で音を立てて怪物を遠ざけてくれないか?」

「怪物が音の原因を、一つ一つ確実に潰していく性格だったらどうするんだ?」

「霧島なんでそういうこと言うの?」

「お前が死んだら姫のことは任せてくれ」

「やめて死亡フラグたてないで!」

 俺がギャーとわめくと、霧島はふっと笑って食器を取りにいった。そしてなぜか少女もついていった。霧島懐かれてるなー。と一人寂しく待っていると、やがて食器を大量に持った二人が帰ってくる。

「ありったけ持ってきたが、足りるだろうか」

「お前俺が何十回音立てるとおもってるの・・・・・・?」

 霧島がナイフを投げ入れると、怪物が音に反応してナイフを潰す。次に、少女が持っていたメモを丸めて投げ入れると、怪物は無反応だった。

「かすかな音には反応しないんだな。ナイフは使える、と。じゃあ、霧島、頼んだぞ」

「・・・・・・しくじるなよ。絶対に」

◆◆◆

 俺は意を決してそっと『怖い部屋』に踏み入った。怪物は反応しない。これなら簡単かもしれない、と思ったが、そんな俺をあざ笑うように乱立する無数の足が、俺の行く手を阻んだ。

(これ、当たったらアウトだよな・・・・・・?)

 気分は赤外線をくぐる泥棒だ。縦横にのびる足を、またぎ、くぐる。そうっと、そうっとだ。

(あああ、プルプルする・・・・・・!!)

 こんな事なら鍛えていればよかった。かち、と動いた足を、頭を右側にひねってかわす。奇妙な体勢のまま、ゆらゆらと揺れる足先を乗り越え、また動いた足をお辞儀するように避けた。ゆっくりと資料に近づいていく。また足が動き、目の前すれすれに止まる。呼吸でばれてしまうんじゃないか。服のすそが当たるんじゃないか。そんな事を考えながら、横にすり抜けた。一歩――また一歩、どれぐらい時間を使った?急いだ方がいいんじゃないか。大丈夫、もうすぐだ――・・・・・・。

 気が付けば俺は、怪物の真下に居た。見上げればイモムシのような黒い胴体がある。そして、資料は目前だった。

(よし、いける!)

 もぞもぞと這って落ちていた紙を掴む。紙は2枚あった。
 一枚目はこうだ。

――――――――――――――――――
帰り道は 黒い知識が 与えてくれる
液体は スープに混ぜて さようなら
――――――――――――――――――

 そして、2枚目にはこう書かれていた。

――――――――――――――――――
おもてなしは 気に入った?
誰でもいい 神様の 退屈しのぎ
怯えて あがいて 楽しませて
夢の中 ずうっと君を 見つめてる
私の名は チャウグナー・フォーン
――――――――――――――――――

 ふと、視線を感じて顔を上げると、怪物の向こう、部屋の奥に、何かが居るのが見えた。俺の上に居る虫なんかどうでも良くなるような、おぞましい、最悪の、何か。

 ――神。



 ずっとずっと、部屋に来たときから、俺が目を覚ましたときから、いや、それより前から、俺達を見つめていた?ずうっと前から、目を付けられていた?俺達の困惑も決意も、全てコイツの娯楽のためだけに、俺達人間は、こいつを楽しませるためだけに――・・・

 カチ、と怪物が足を動かす音で、俺は我に返った。何をバカなことを考えていたんだ。部屋の奥には”何も居ない”じゃないか。どうやら俺は、思ったよりも精神的に疲れているらしい。まだ帰りもあるんだ。しっかりしなければ。

 俺は再び這いながら、部屋の扉を目指す。廊下からは、霧島たちが心配そうに顔を覗かせているのが見えた。かなり心配をかけたらしく、二人とも顔色が悪かった。

 再び、来た道を戻る。しゃがんで、潜って、避けて。しかし、やはり疲れていたのだろう。もうすぐ出口という所で、俺は紙を一枚落としてしまった。掴み取ろうととっさにのばした手が、怪物の”足”に触れる。

 ――ざわ

 怪物が足を蠢かせる。

「谷山!走れっ!!」

 霧島がナイフを投げたが、怪物の足に当たって砕かれる。逃げる俺に向かって、怪物の足が振り上げられた。霧島は部屋に一歩足を踏み入れ、俺の手を掴む。そして俺を廊下に放り投げた。何かが裂ける音と、うめく声が聞こえる。

 ――ガァン!!!

 俺を引き裂くはずだった攻撃は、空振りに終わった。怪物はギチギチと音を立てたが、やはり扉から外には出られないらしい。助かった。咳き込みながら落としかけた紙を見ると、それは毒の資料だった。よかった。失わなくて。
 立ち上がり、霧島に礼を言おうと視線をやると、霧島はわき腹を押さえてうずくまっていた。寄り添う少女が、目から大粒の涙をこぼす。霧島の腹は、大きく切り裂かれ、血が大量に滲み出していた。

 つづく
矢印文鳥と毒 一覧へ

6.終章

「霧島!」

 俺が霧島に駆け寄ると、霧島は腹を押さえながら上半身を起こした。

「大丈夫・・・・・・だ。怪物の足がかすっただけで・・・・・・血は出ているが、そんなに、深くは無い。それより、資料には、なんて書いて・・・・・・あるんだ?」

 見るからに大丈夫そうではないのだが、それを言ったところで、ここでは医者に見てもらうことも出来ない。俺は泣きそうになるのをこらえながら、資料を読み上げた。

「帰り道は黒い知識が与えてくれる、液体はスープに混ぜてさようならって書いてある。ごめん、霧島。俺がもっとちゃんと動けば、こんなケガしなかったのに、」

 霧島は笑って俺の言葉を遮った。

「黒い知識、は、多分『本の部屋』にあった、黒い本のことだ。触ると液体が、手に付く。銀食器を触った、とき、黒ずんだ、から。黒い本についているのが、スープに混ぜる、毒だ」

 俺は何度もうなずき、床に散らばる食器のスプーンを手にとって、『本の部屋』へと走った。短くなったろうそくの光が、たくさんの本の中でも異彩を放つ黒い本を照らし出す。スプーンを本の表紙に当てると、表紙はスポンジで出来ているかのように沈み、たっぷりと毒液を滲み出させた。俺はそれをすくい取ると、『スープの部屋』へと急ぎ、ぬるくなったスープに毒液を溶かし込む。『お料理部屋』からコップを3つ持ち出し、そこにスープを分けたところで、霧島が少女の手を借りながら『スープの部屋』に戻ってきた。

「霧島、外に出られたら、すぐに救急車を呼ぶから」

 俺は霧島にコップを握らせた。霧島は息も絶え絶えで、体からは大量の血が垂れていた。こんな状態で、さらに毒を飲んで。死ぬんじゃないか、本当はどこかに安全な出口が隠されているんじゃないか。俺が迷っているうちに、霧島は言った。

「ああ、信用している。谷山。」

 そうして、スープを一気にあおった。少女もぐずぐず泣きながら霧島に続く。二つのコップが空になった。俺も決意を決め、スープを口にする。

 効果は、すぐにあらわれた。鼓動が早くなり、血が沸騰する。熱い。息が苦しい。視界の端で、霧島が床に倒れる姿が見えた。少女も苦しそうに座り込む。強い毒だ。このままでは、心臓が疲れて止まってしまう。息ができなくて窒息してしまう。俺はついに耐え切れず崩れ落ちた。

 ふと、視線を感じた。何かがこちらを見ている。強大で、傲慢で、絶対的な何か。俺達が苦しみ、死んでいくのを、じっと見つめている。神だ。俺達では対抗できない、対等ではない、意見することは許されない。――だが、

「お前が約束したことくらい、守れ」

 俺の言葉が音になったかどうかは分からない。呼吸すらまともに出来なくなっていたからだ。だが、スープ飲めば帰すと約束したのはそちらだ。俺達は毒入りスープを飲んだ。今度はそっちが行動する番だ。

 神は、俺の言葉に、にたりと笑ったようだった。

 ――そして、吠えるような声が響き渡る。



《《勇敢なる者達よ、現世に還るがいい!》》



 その声を最後に、俺の意識は途絶えた。

◆◆◆

「・・・・・・んあ?」

 俺が目を覚ますと、見慣れた景色が広がった。小鳥の声が聞こえ、窓から陽光が差し込んでいる。俺の部屋だ。顔の横にあったスマホは電源が落ちていた。長い夢から、今、覚めたのだ。

「そうだ、霧島・・・・・・!」

 俺は急いで霧島に電話した。霧島は一人暮らしだ。あのケガで助けが呼べるとも思えない。霧島の家に向うために自宅を飛び出しながら、返答を待った。俺の予想に反し、電話は数コールで繋がった。

『谷山?どうした、朝から』

 霧島の平然とした声が聞こえ、俺は面食らった。

「どうしたって、ケガしただろ!?体調は大丈夫なのか、腹はどうなってる!?」

 一拍おいて、霧島はああ、と呟いた。

『あの夢、お前も見ていたのか。夢で負った傷が、現実でもつく訳ないだろ』

 さっぱりとした口調に、俺は理不尽な怒りを覚えた。俺の心配を返せ!

「っとにかく、今からお前の家に行くから!」

 明るい日差しの中を、俺は走っていった。

◆◆◆

 霧島はいつもの安アパートで、俺を待っていた。どこにもケガを負った様子はなく、元気そうだ。霧島は俺を見つけると、くいっとあごで部屋を示した。

「白文鳥、見るって言ってただろ。部屋に入っていいぞ。」

「お前、本当、あっさりしてるよな・・・・・・!」

 憤慨する俺の様子に、霧島は笑う。

「・・・・・・まぁ、状況もおかしかったし、怪物も出てきたし、早々に現実ではないと気が付いていたからな。ついでに言うと、お前のことも、寝る前に話してから出てきただけだと思っていた。だから最後に余計な事を言ってしまったんだが、まさか二人同時に同じ夢を見るとは・・・・・・」

 信じるとか言った事が照れくさかったのか、霧島はそそくさと部屋に入った。俺も後に続く。霧島の部屋は、あいかわらず何と言うか、片付いているというか殺風景だった。

「俺達が同じ夢を見たってことはさ、あの少女も実在の人なんじゃないの」

 霧島は首を振った。

「言葉が不自由な白い少女が?実在したとしても、日本人かどうかも分からない。もう二度と会うことはないだろうさ」

 そう言って文鳥のケージの扉を開いた。話に聞いていた通り白い。手に乗せてもらってじっと見つめる。とてもおとなしい文鳥だった。足が細いから女の子だろうか。右足には赤い足輪が付けられている。そっと頭をなでると、白文鳥は赤い目をぱちりと瞬いた。・・・・・・ん?赤い目?

「白文鳥じゃねぇ!アルビノ文鳥じゃねぇか!!」


 俺の声に驚いたのか、文鳥が逃げる。霧島は文鳥をカゴにもどしながら首をかしげた。

「ペットショップで白いのがほしいと言ったんだが。白いのは白文鳥だろう?」

「違うよ!目が赤いからアルビノ文鳥だよ!光をまぶしがる事があるから気をつけてあげてね!っていうか、夢に出てきたアルビノ少女、この子なんじゃないの?カラーリング一緒だし、右足に赤い輪が付いているところも同じ。文鳥なら、話せないのも納得だろ!?どうりで霧島に懐いていた訳だよ!」

 これ以上ないくらい名推理だと思ったが、霧島は首を振った。

「文鳥は人間にはならない。」

「お前、鈍感だって言われない?」

 俺は呆れたが、霧島は気にもせずアルビノ文鳥のキリと戯れていた。ちくしょう、俺も家に帰って姫に癒されたい。そういえば、朝の世話もせずに走ってきてしまった。はやく帰らなければ。

 こうして俺達は日常に戻っていった。
 おかしな夢を見たことも、きっと記憶から薄れていくのだろう。
 きっと。

◆◆◆

 ”神”は誰も居ない部屋で、ひとり目を閉じた。
 招待客は毒を飲み、皆帰って行った。

 勇敢な人間は好きだ。
 壊れにくいし、なにより面白い。

 ”邪神”チャウグナー・フォーンは、満足げに笑った。
 さぁ、次は何をして遊ぼう?

◆◆◆

 ドイツの哲学者、フリードリヒ・ニーチェは、こんな言葉を残している。

【怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。
 おまえが長く深淵を覗くならば、
 深淵もまた等しくおまえを見返すのだ】と。

 谷山は見てしまった。神を。
 覗いてしまった。深遠に住む怪物を。

 怪物もまた、谷山を見た。

 戦え、そして、
 ――怪物と化さぬよう心せよ。

 完
矢印文鳥と毒 一覧へ

解説

▼真相

あるところに、チャウグナー・フォーンと言う名の"邪神"がいました。
"邪神"はとても強く、不思議な魔法が使えます。
人間のことは蛆虫と同じと考えていますが、勇敢な人間だけは好きです。

あるとき、退屈をもてあました"邪神"は、人間を使った"遊び"を思いつきます。
夢の中に"部屋"をつくり、そこに人間を閉じ込め、出たいなら毒を飲めと要求する。
きっと、人間は困って苦しんで、とても面白い退屈しのぎになるでしょう。

人間はどこかの部屋で死ぬかもしれないし、
勇敢にも毒を飲むかもしれない。
そのときは約束どうり、無傷で帰してやろう。
でも、もし、時間が来ても毒を飲まなかったら。
・・・・・・そんな人間は、"邪神"みずから殺してしまおう。

夢の中で死ねば、現実でも死ぬこととなります。
そうして無作為に選ばれた"人間"は、部屋に閉じ込められるのです。


▼谷山たちの場合

狙われたのは霧島でしたが、ついでに電話の相手だった谷山、同じ部屋にいた文鳥も巻き込まれました。
そして、『怖い部屋』に一人挑んだ谷山、友人を助け怪我を負った霧島の勇敢な行動に気をよくした"神"は、毒を飲んだ一行を無傷のまま帰します。


▼時間

目覚めた瞬間にカウントダウンが始まります。
・目覚めて、話し合った時間→5分(残り55分)
・いい子の部屋、本の部屋探索→10分(残り45分)
・集合、お料理部屋探索→10分(残り35分)
・怖い部屋→20分(残り15分)
・スープ制作、飲む→3分(残り12分)
・帰還
二手に分かれたおかげで、結構余裕がありました。


▼アルビノの少女

谷山が見抜いた通り、その正体は霧島のペットのアルビノ文鳥です。
『怖い部屋』の対処法として、"邪神"が人の姿に変え、谷山たちに贈りました。
もし谷山が少女を怪物に食わせていたら、現実でアルビノ文鳥は無残な死体となって発見されたことでしょう。


▼いい子の部屋の死体

前回、閉じ込められた人間の成れの果てです。
彼は毒入りスープを飲めませんでした。


▼谷山

一人だけ"神"を目撃し、"神"に面白いと思われた谷山。
きっとまた、面倒ごとに巻き込まれるでしょう。

矢印文鳥と毒 一覧へ


文鳥用品を探す!

 HOMEへ